糖尿病の食事療法
糖尿病の治療には食事療法が欠かせません。食事療法というと、食事制限をイメージするかもしれませんが、必ずしも厳しい食事制限が必要なわけではありません。糖尿病の食事療法は、栄養バランスを整えて適正カロリーを摂取するという方法です。
年齢や活動量、病状などによって食事プランは異なりますので、個々に合わせた指導が必要になります。
自身の適正エネルギー量を知る
一日に必要な適正エネルギー量は、身長と体重、活動量から計算することができます。
以下の計算式を利用して、まずは適正エネルギー量を知りましょう。
適正エネルギー量の計算方法
目標体重の計算式
年齢 | |
---|---|
65歳未満 | 目標体重(kg)=身長(m)×身長(m)×22 |
65歳以上 | 目標体重(kg)=身長(m)×身長(m)×22〜25 |
1日の適正エネルギー摂取量の計算式
適正エネルギー量(1日)=目標体重(kg)×エネルギー係数
エネルギー係数の目安
労作 | |
---|---|
軽い労作 (大部分が座位の静的活動) |
25~30kcal/kg目標体重 |
普通の労作 (座位中心だが通勤、家事、軽い運動を含む) |
30〜35kcal/kg目標体重 |
重い労作 (力仕事、活発な運動習慣がある) |
35〜kcal/kg目標体重 |
当院の食事療法
食べ方に気を付ける
腹八分目を心がける
腹八分目で食事をすることは、血糖値の上昇や体重増加を防ぐためにも有効です。必要以上のカロリー摂取を避けるために、腹八分目を意識するように意識しましょう。
ゆっくりと噛んで味わう
食事をゆっくりと味わうことも大切です。食べ物をよく噛み、食事に時間をかけることで、少量でも満足感を得られ、過食を防ぐことができます。
朝食を抜かない、夜食は食べない
朝食は1日のエネルギー摂取のスタートとなるため、必ず摂るようにしましょう。夜間はエネルギー消費が少ないため、寝る直前の食事は避けましょう。体のリズムを考慮して、朝食でしっかりエネルギーを補給し、日中の活動に備えることが大切です。夜食を摂ると、就寝中の低いエネルギー消費率のために血糖値が下がりにくくなります。そのため、就寝前数時間は食事や甘い物を控えることが推奨されます。
お腹が空いた時に買い物をしない、
食べ物は見えない場所に置く
空腹時に食品を購入すると、高カロリーの食べ物を無意識に選んでしまうことがあり、これが過食へと繋がることがあります。さらに、テーブル上など視界に入る場所に常にお菓子やフルーツなどが置かれていると、食欲中枢が刺激されすぎてしまい、結果としてカロリー過多に陥ることがあります。食品は目につかない場所、例えば冷蔵庫や扉付きの棚に保管し、食べる量だけを取り出す習慣を身につけましょう。
食事を摂る順番に気を付ける
食事の際に食べる順番を意識することで、食後の血糖値の上昇をコントロールできます。炭水化物を含むご飯、パン、麺類などを食事の初めに摂取すると、血糖値が急激に上がり、それに伴い大量のインスリンが分泌されます。一方で、食物繊維が豊富な野菜や海藻、キノコなどを先に食べることで、血糖値の上昇が緩やかになります。
野菜、タンパク質、炭水化物の順に摂取しましょう。
先に食べた方が良い物
- 野菜、海藻、キノコなど食物繊維を多く含んだもの
- 汁物(みそ汁やスープなど)
- 肉や魚などのタンパク質
後に食べた方が良い物
- ご飯・パン・麺類・餅などの炭水化物
カロリーの高い食品は
食べ過ぎないように
各栄養素の1gあたりのエネルギー量ですが、糖質とタンパク質はそれぞれ4kcal、脂質は9kcal、アルコールは7kcalとされています。脂質とアルコールは特に高カロリーであり、少量でも容易にカロリーオーバーになるため、摂取には注意が必要です。特に、脂質は食品のうま味成分を保持し、溶け込ませる役割があり、これが美味しさを増すため、過食の誘因となり得ます。したがって、脂質の摂取量には特に注意を払うことが重要です。
調味料の摂取には要注意!
調味料に含まれている脂質や糖質は決して少なくありません。カロリーが意外と高いものも多く存在します。例えば、鶏胸肉とキュウリを使った低カロリーサラダも、ゴママヨネーズやラー油を多く加えると、一気に高カロリーな食事に変わってしまいます。調味料は少量で使用することが一般的で、日常的に使用する調味料のカロリーを把握し、一度にどれだけ使用しているかを確認することが大切です。
さらに、高血圧のリスクを抑えるためには、塩分の摂取量にも注意が必要です。
脂質や糖質、塩分を
摂りすぎないようにする
調理方法に工夫を凝らす
- フッ素樹脂加工のフライパンを使用し、油を最小限に抑えて料理をしましょう。
- 肉を焼く時は、網やグリルパンを利用して余計な脂を落としましょう。
- 肉を茹でたり煮込んだりする際には、表面に浮いた脂をこまめに取り除きましょう。
菓子類・清涼飲料水は少なめに
糖質や塩分は感覚を鈍くし、無意識のうちに過食に繋がることがあります。これは間食時に摂るお菓子や清涼飲料水にも当てはまります。食事する際は、味だけでなく栄養成分表示をチェックし、適量を守ることが大切です。飲み物は、水、お茶を摂る習慣を身につけましょう。味のついた飲み物は血糖値を上昇させます。
青魚の油脂は健康に良いので
摂取しましょう
青魚とは、背が青い色をしている魚の総称で、サバ、イワシ、サンマ、アジ、マグロなどがその代表例です。これらの魚には、高品質なタンパク質や、肉類では不足しがちなビタミンDが含まれており、さらに血液をサラサラにする効果や脂肪の生成を抑える効果があるEPA(エイコサペンタエン酸)、脳の健康に欠かせないDHAが豊富に含まれています。EPAとDHAはn-3系多価不飽和脂肪酸に分類され、これらを積極的に摂取することが推奨されています。
野菜や海藻、キノコを摂取しましょう
エネルギー源として体内で利用される糖質、タンパク質、脂質の燃焼と消費には、ビタミンやミネラルが欠かせません。これらの栄養素は、野菜、海藻、キノコなどに豊富に含まれていますので、毎食でしっかりと摂取することが大切です。また、食物繊維も多く含まれており、食後の血糖値が急上昇するのを抑える効果が期待できます。
飲酒は適量を心がけ、
休肝日を設けましょう
過剰な飲酒は健康に多くの悪影響を及ぼすことが知られています。肝障害、膵炎、脂質異常症、高血圧症、食道がんなどです。特に肝臓に関しては、アルコール肝障害から脂肪肝、アルコール性肝炎となり、最終的に肝臓の機能が破綻する肝硬変や肝臓がんに至ることもあります。
定期的な飲酒量の見直しや禁酒期間を設けることが、健康を維持するために重要です。
適量を守りましょう
アルコールの摂取量の目安は、純アルコールで1日あたり20g以内です。この量を様々なアルコール飲料に換算すると以下のようになりますが、これはあくまで一般的な目安であり、銘柄によって異なることがあります。特に、女性や高齢者は、これよりもさらに少ない量を心掛けましょう。
- ビール(中ビン1本)5度:500㎖/200kcal
- 日本酒(1合)15度:180㎖/185kcal
- ウイスキー(ダブル1杯)43度:60㎖/142kcal
- ワイン(1/4本)14度:180㎖/131kcal
- 焼酎(約6合)25度:100㎖/140kcal
休肝日を必ず作りましょう
アルコールは中性脂肪の合成を促し、脂肪肝を引き起こします。飲酒量が多ければ多いほど、肝障害を発症しやすくなります。適量の飲酒に留めること、そして週に2日は休肝日を設けて肝臓の負担を軽減し、脂肪肝の予防に努めることが重要です。
アルコールの大部分は肝臓で代謝されます
肝臓は1時間に体重1kgあたり約0.1~0.2gのアルコールを分解する能力があると言われています。そのため、体重60kgの方が20gのアルコールを分解するには、約1.5~3.5時間が必要です。そのため、適量の飲酒であっても、肝臓を休ませるために休肝日を設けることは、肝臓の健康を維持する上で非常に大切とされています。
糖尿病の運動療法
血糖値に対する運動の効果について
有酸素運動をすると、筋肉でエネルギーが必要とされるため、そのもとになるブドウ糖が大量に消費され、血糖値が下がります。特に、食後30分から2時間以内に運動をすると、食事による急激な血糖上昇(食後高血糖)を抑える効果があります。また、長期的に運動を継続することで、インスリン抵抗性(インスリンの作用不足)の改善効果も期待できます。筋肉量が増加すると、カロリー消費が増え代謝が活性化するため、適度な筋力トレーニングも有効です。ただし、運動は心臓、腎臓、関節などへの負担もあるため、個々の健康状態や体格に合わせた運動プログラムを医師と相談して実施することが重要です。運動前後にはストレッチを行い、無理なく継続できるように心がけましょう。
当院の運動療法の方針
糖尿病の患者さまに対する運動療法には一律の規定はなく、個々の状態に応じた運動が推奨されています。ガイドラインによると、以下の運動が有効とされます。
中等強度運動
最高心拍数の50〜70%に相当する運動を週3回以上、合計で150分以上行うこと。
レジスタンス運動
週に最低2〜3回行う。
レジスタンス運動として挙げられるトレーニングは、スクワット、腕立て伏せ、ダンベル体操などです。これらは、患者さまの状態に合わせて負荷を調整するのが望ましいです。
歩行に関しては、1日1万歩が目安ですが、1日20分、約2000歩を歩くだけでもHbA1c値が約0.7%低下すると報告されています。一方で、座っている時間が長いと予後が悪化する傾向があるため、デスクワークや運転で座る時間が長い場合は、定期的に立ち上がり、歩いたりストレッチをしたりすることが重要です。運動の種類に固執するよりも、日常生活で積極的に動くことを心掛けることが大切です。
効果的な運動
有酸素運動
ウォーキング、軽めのジョギング、水泳など、軽く汗をかく程度の全身運動を各20~30分ずつ、1日に2セット実施することが望ましいです。継続しやすくするためにも、通勤や買い物での歩行時間も含め、初期目標として1日1万歩を目指すことをお勧めします。スマートフォンの健康管理アプリを活用すると、運動への意欲が高まりやすくなり、楽しく続けやすくなります。
しかし、軽度の有酸素運動であっても、高血圧や心臓病などの循環器系の疾患、肥満、関節炎などの既往症がある場合は、運動の種類や強度、時間、頻度について医師と相談し、その指示に従って運動を行うことが重要です。
ウォーキングのやり方
正しい歩き方を意識することで、ウォーキングの効果が実感しやすくなります。背筋をしっかりと伸ばし、少し大きめの歩幅で歩くことを心掛けてください。適度に汗をかく程度で歩くことが推奨されているため、通常の散歩よりも速めのペースを維持しましょう。転倒を防ぐためには、つま先を上げてかかとから地面に足をつけるようにし、腕を活発に振ることで、足が前に出やすくなります。
ウォーキングの前後には、アキレス腱を伸ばすなどの軽いストレッチを行い、運動中は定期的に水分を補給することが大切です。
筋力トレーニング
筋力トレーニングにおいては、足、腰、背中といった大きな筋群を対象にすることで、効果的な結果が期待できます。これらの部位の筋肉を強化することで、骨や関節への負荷を軽減することが可能です。高価なトレーニングマシンを用いる必要はなく、ご自宅で簡単かつ安全に実施できるエクササイズを行いましょう。患者さまの具体的な健康状態、年齢、体型に応じたトレーニングプランをご提案いたしますので、お気軽にご相談ください。
ふくらはぎのトレーニングをするには
両手を壁につけ、両足のかかとをゆっくりと上下に動かす運動を繰り返しましょう。家具などを使うと転倒する恐れがあるため、安定した壁を使用してください。
ふくらはぎの筋肉は「第二の心臓」とも称され、足から心臓へと血液を送り返す重要な機能を果たしている部位です。そのため、ふくらはぎの筋力を鍛えることは、全体的な健康に寄与する重要な活動とされています。
運動を続けやすくするには
運動の強度、頻度、時間、そして運動を行う時間帯に関する以下の内容は、一般的なガイドラインです。患者さまの健康状態、年齢、体型によっては、適切な運動プログラムが大きく異なる場合もあります。
特に、他の疾患を持つ方や長期間運動から離れていた方は、軽い負荷から始めるのが望ましいです。医師との相談を通じて、患者さま個人に適した運動計画を立て、実施することが推奨されます。
強度(負荷)について
運動は「ややきつい」程度の負荷になるのを勧められていますが、きついと感じるかどうかは個人差があるため、不安があれば医師に一度相談しましょう。糖尿病治療における運動療法では、50歳未満では心拍数100~120回/分、50歳以上では100回/分未満が目安とされています。
脈拍数の目安ですが、軽い有酸素運動の場合は(220−年齢)×0.6、
より負荷のかかるレジスタンス運動の場合は、(220−年齢)×0.75
で計算します。計算された脈拍数を基に、スマートウォッチなどを使用して運動中の脈拍をチェックしながら運動を行うことが推奨されます。
例;50歳の方が負荷のかかる運動を
行う際の心拍数の目安
目安にする脈拍数(回/分)=(220−50)×0.75=127.5回/分
回数と時間について
運動は1回につき20~60分行い、週合計で150分以上を目標にすることが推奨されています。毎日の運動が理想的ではありますが、何よりも重要なのは、継続可能な運動を習慣化することです。過度に厳しい運動プログラムは継続が難しくなるため、患者さまの年齢、体格、健康状態に合わせた運動を選ぶことが大切です。楽しみながら無理なく続けられる運動を選択し、実践してみてください。何か気になる点があれば、医師に遠慮なく相談してください。
運動する時間帯について
運動をするのに特定の時間帯は必要ありませんが、食後の血糖値をコントロールするためには、食事の後1~2時間以内に行う運動が有効です。
歩数計の活用
毎日の歩数目標として1万歩は、歩数計だけでなくスマートフォンやスマートウォッチを使用すると追跡しやすく、明確な目標となります。日々、週単位、月単位での歩数の記録を振り返ることで、運動による健康への影響を具体的に把握し、運動療法の成果を感じやすくなります。また、これらのデータを健康診断の結果と照らし合わせることで、運動を続けるモチベーションを保つのに役立ちます。
運動で気をつけること
低血糖対策を心掛けましょう
インスリンやSU薬を使用している方は、低血糖への対応を常に心がける必要があります。運動時は水とブドウ糖を携帯し、もし運動中に冷や汗、動悸、息切れ、震え、脱力感、めまい、意識のもやもや感など、低血糖の兆候を感じたら、直ちにブドウ糖を摂取してください。軽度の低血糖であれば、おにぎりなどの軽い食事で対応できますが、ブドウ糖は速やかに効果を発揮するため、持ち歩くことを推奨し、低血糖発作に備えて最初にブドウ糖をとるようにしてください。
運動制限が必要な方へ
運動は糖尿病や他の生活習慣病の予防と改善においても有効ですが、特定の健康状態では運動制限が必要な場合もあります。以下の条件に該当する場合は、運動療法を注意深く行ったり避けたりする必要があります。医師の指導のもと、安全な範囲で運動を実施してください。
- 空腹時血糖が250mg/dLを超える場合
- 運動による脱水症状の経験がある場合
- 感染症に罹患している場合
- 進行性の自律神経障害がある場合
- 進行性の網膜症がある場合
- 進行性の腎臓病がある場合
- 足に潰瘍や壊疽がある場合
- 重篤な心臓病がある場合
- 肺の疾患がある場合
- 骨や関節の疾患、怪我がある場合
日常生活の身体活動量を
増やしましょう
運動をするために特別な時間を確保する必要はなく、日常のあらゆる動きが運動になります。通勤や通学、買い物の際の歩行、家事の実施、階段の利用、散策、観光中の歩き、さらには身体活動を伴う遊びやゲームもすべて運動の一部です。ウォーキングやジョギング、水泳、ヨガ、ジムでのトレーニングに限らず、日々の生活の中で簡単に取り入れられる楽しい運動メニューを見つけることが、継続的な運動習慣を築く鍵となります。
- 通勤や通学時には、一駅前で降りて歩くことを心がける
- デスクワークをしている間、足のかかとを持ち上げたり下げたりする小さな運動をする
- 仕事の休憩時間を利用して、ストレッチを行う
- 普段より少し遠めの店まで歩いて買い物に出かける
- 散歩を日常的な習慣として取り入れる
- エレベーターやエスカレーターの代わりに、階段を積極的に使う
- 掃除や洗濯といった家事を、日々の運動として取り組む
- 観光地を訪れた際は、できる限り歩いて移動する
- 登山やハイキング、バードウォッチングなど、歩くこと自体を楽しめる趣味を持つ
糖尿病の薬物療法
血糖値を下げる内服薬について
糖尿病の治療に用いられる薬には、様々な作用機序を持つものがあり、それぞれ患者さまの症状や状態に応じて選択されます。インスリンの分泌を刺激するタイプ、インスリンの作用を強化するタイプ、そして糖の吸収を抑えたり排出を促進したりするタイプに大別されます。また、これらの異なる作用を組み合わせた配合薬もあります。
インスリン分泌促進薬
膵臓のβ細胞に作用し、インスリンの分泌を促進することで血糖調節を助けます。
インスリン抵抗性改善薬
インスリン抵抗性、つまりインスリンの作用が不十分な状態を改善し、その作用を増強します。
糖吸収・排泄調整薬
食後の血糖上昇を抑制するために糖の吸収を遅らせたり、尿を通じて糖を排出させたりすることで血糖値を調整します。
配合薬
複数の薬を組み合わせた配合薬もあります。患者さまの状態に応じて選ばれ、服用する薬の錠数を減らすことができます。これにより、患者さまの負担を減らすことができます。
インスリン分泌促進薬
インスリン分泌促進薬は、膵臓のβ細胞に作用し、インスリンの分泌を促進して血糖値を下げる効果があります。
スルホニル尿素薬(SU薬)
一般名(商品名)
- グリベンクラミド(商品名:ダオニール、オイグルコン)
- グリクラジド(商品名:グリミクロン)
- グリメピリド(商品名:アマリール) など
作用
膵臓のβ細胞を刺激してインスリンの分泌を促す作用があります。
副作用
- 低血糖
- 体重増加 など
速効型インスリン分泌促進薬
(グリニド薬)
一般名(商品名)
- ナテグリニド(商品名:ファスティック、スターシス)
- ミチグリニドカルシウム水和物(商品名:グルファスト)
- レパグリニド(商品名:シュアポスト) など
作用
これらの薬は服用すると迅速にインスリン分泌を促進する効果があります。
副作用
- 低血糖
- 体重増加 など
備考
- 食事の直前に服用し、食後高血糖を改善します。
- スルホニル尿素薬(SU薬)と比較して、吸収が速く効果が短時間で現れる一方で、体内からの排出も早いです。
DPP-4阻害薬
一般名(商品名)
毎日服用するタイプ:
- シタグリプチンリン酸塩水和物(商品名:ジャヌビア、グラクティブ)
- ビルダグリプチン(商品名:エクア)
- アログリプチン安息香酸塩(商品名:ネシーナ)
- リナグリプチン(商品名:トラゼンタ)
- テネリグリプチン臭化水素酸塩水和物(商品名:テネリア)
- アナグリプチン(商品名:スイニー)
- サキサグリプチン水和物(商品名:オングリザ)
週1回服用するタイプ:
- トレラグリプチンコハク酸塩(商品名:ザファテック)
- オマリグリプチン(商品名:マリゼブ)
作用
これらの薬は、インクレチンというホルモンの働きを助け、血糖値が上昇した時にインスリンの分泌を促進すると同時に、血糖値を上げるグルカゴンの分泌を抑制します。
副作用
- 低血糖
- 胃腸障害 など
備考
これらの薬を単独で使用した場合、低血糖のリスクは低いですが、スルホニルウレア薬(SU薬)との併用時には低血糖のリスクが高まることがあります。
GLP-1受容体作動薬
一般名(商品名)
- セマグルチド(商品名:リベルサス)
作用
膵臓のβ細胞にあるGLP-1受容体に結合し、血糖値が高い時にインスリンの分泌を促進すると同時に、血糖値を上げるグルカゴンの分泌を抑制します。
副作用
- 吐き気
- 便秘や下痢 など
備考
- 単独で使用した場合、低血糖のリスクは比較的低いですが、スルホニルウレア薬(SU薬)との併用により、低血糖のリスクが増加する可能性があります。
- 体重減少の効果も期待されます。
- 心臓、腎臓の保護効果があります。
グリミン系
一般名(商品名)
- イメグリミン塩酸塩錠(商品名:ツイミーグ)
作用
血糖上昇時にインスリンの分泌を促すとともに、膵臓のβ細胞を守ります。また、肝臓や筋肉での糖の代謝を向上させ、インスリン抵抗性を改善します。
副作用
- 吐き気
- 下痢や便秘 など
備考
単独での使用時は低血糖のリスクが低いですが、スルホニルウレア薬(SU薬)との併用により、低血糖のリスクが増加することがあります。
インスリンの効果を高める薬
インスリンの作用を強化する薬は、インスリン抵抗性を改善し、インスリンの効果を増強します。
ビグアナイド薬
一般名(商品名)
- ブホルミン塩酸塩(商品名:ジベトス)
- メトホルミン塩酸塩(商品名:メトグルコ、グリコラン) など
作用
これらの薬は、肝臓での糖の生成を抑え、インスリンの感受性を高めることでインスリン抵抗性を改善する効果があります。
副作用
- 吐き気
- 下痢や便秘 など
備考
- 高齢者や他の疾患を持つ方では副作用が強く出ることがあります。
- アルコールを多く摂取している場合は使用できません。
- 腎機能低下が著しい場合は使用できません。
- 単独で使用した場合、低血糖のリスクは低いです。
- 他の糖尿病治療薬と比較して体重増加のリスクが低いとされています。
チアゾリジン薬
一般名(商品名)
- ピオグリタゾン塩酸塩(商品名:アクトス)
作用
骨格筋・肝臓でのインスリン抵抗性を改善することで、血糖管理をサポートします。
副作用
- 浮腫み
- 体重増加
- 心不全 など
備考
- この薬は単独で使用した場合、低血糖のリスクが低いとされています。
- 心不全の方には使えません。
グリミン薬
一般名(商品名)
- イメグリミン塩酸塩(商品名:ツイミーグ)
作用
高血糖時にインスリンの分泌を促し、インスリン分泌細胞である膵臓のβ細胞を守ります。また、肝臓や筋肉での糖の代謝を活性化させ、インスリン抵抗性を改善します。
副作用
- 吐き気
- 下痢や便秘
- 低血糖 など
備考
単独で使用する場合、低血糖のリスクは低めですが、スルホニルウレア薬(SU薬)と組み合わせると、低血糖のリスクが上がる可能性があります。
糖の吸収や排泄を調整する薬
糖の吸収や排泄をコントロールする薬には、血糖値の急激な上昇を抑えるものや、尿を通じて糖を排出させるものが含まれます。
α-グルコシダーゼ阻害薬
一般名(商品名)
- アカルボース(商品名:グルコバイ)
- ボグリボース(商品名:ベイスン)
- ミグリトール(商品名:セイブル) など
作用
腸管での糖の消化と吸収を緩やかにさせることで、血糖値の上昇を緩和します。
副作用
- 腹部膨満感
- おなら(ガス)の増加
- 肝障害 など
備考
食事の前に服用することが推奨されます。
SGLT2阻害薬
一般名(商品名)
- イプラグリフロジンL-プロリン(商品名:スーグラ)
- ダパグリフロジンプロピレングリコール水和物(商品名:フォシーガ)
- ルセオグリフロジン水和物(商品名:ルセフィ)
- トホグリフロジン水和物(商品名:デベルザ、アプルウェイ)
- カナグリフロジン水和物(商品名:カナグル)
- エンパグリフロジン(商品名:ジャディアンス)
作用
これらの薬は、尿細管でのブドウ糖の再吸収を阻害し、糖が尿として排出されることで血糖値を下げる効果があります。
副作用
- 低血糖
- 尿路感染症や性器感染症
- 脱水症状
- 頻尿
- 皮膚症状 など
備考
- 高齢者や体調が悪い場合には、重篤な副作用が発生するリスクがあります。
- 単独で使用した場合、低血糖のリスクは比較的低いです。
- 心臓、腎臓の保護効果があります。
配合薬
複数の効果を組み合わせたもので、適切なものを選ぶことで、服用する薬の種類を減らすことが可能です。
一般名(商品名)
- ピオグリタゾン塩酸塩+メトホルミン塩酸塩(商品名:メタクト配合錠LD/HD)
- ピオグリタゾン塩酸塩+グリメピリド(商品名:ソニアス配合錠LD/HD)
- アログリプチン安息香酸塩+ピオグリタゾン塩酸塩(商品名:リオベル配合錠LD/HD)
- ミチグリニドカルシウム水和物+ボグリボース(商品名:グルベス配合錠)
- ビルダグリプチン+メトホルミン塩酸塩(商品名:エクメット配合錠LD/HD)
- アログリプチン安息香酸塩+メトホルミン塩酸塩(商品名:イニシンク配合錠)
- アナグリプチン+メトホルミン塩酸塩(商品名:メトアナ配合錠LD/HD)
- テネリグリプチン臭化水素酸塩水和物+カナグリフロジン水和物(商品名:カナリア配合錠)
- シタグリプチンリン酸塩水和物+イプラグリフロジンL-プロリン(商品名:スージャヌ配合錠)
- エンパグリフロジン+リナグリプチン(商品名:トラディアンス配合錠AP/BP)
作用・副作用
含まれる成分によって異なります。
備考
配合薬を使用することで、服用する薬の数を減らし、治療の管理が容易になり、経済的な負担も軽減されることが期待されます。
インスリン療法
インスリン注射が必要になる場合
1型糖尿病は、感染症などが引き金となり自己免疫反応によって膵臓のβ細胞が破壊され、結果としてインスリンが不足し高血糖状態に至ります。このタイプの糖尿病ではインスリン補充療法が必須で、インスリン注射が必要になります。
一方、2型糖尿病は遺伝的要因と生活習慣が組み合わさって発生し、インスリンの分泌不足や作用不足により高血糖が引き起こされます。治療は初期段階では食事療法や運動療法に重点を置きますが、これらが不十分な場合には薬物療法が加えられることもあります。また、病状に応じてインスリン注射が導入されることもあり、これにより膵臓の機能回復が期待されることもあります。
インスリン療法は、
以下のような状況においても
行われることがあります
- 妊娠中で糖尿病を併発している場合
- 重度の肝機能障害、腎機能障害がある場合
- 重症感染症、外傷、外科手術のとき
- 高血糖昏睡のとき
- ステロイド治療による高血糖を認める場合
インスリン療法は「2型糖尿病の
最終手段」ではありません
インスリン療法が必要となるのは、多くはインスリン依存状態の時です。その代表的なのが 1型糖尿病で、膵臓からインスリンが出なくなるため、外からインスリンを補ってあげる必要があります。また、2型糖尿病でも高血糖が続くと、膵臓が疲弊してインスリン依存状態に陥ることがあります。発症初期であれば、一時的にインスリン療法をすることで、膵臓の機能回復を図ることができます。その後、短期間でインスリンは不要となるケースが多いです。一方、糖尿病の罹病期間が長くなり、生活習慣の改善が乏しく、内服薬では血糖値が下がらなくなった場合にもインスリンの導入を検討します。ただし、インスリンを始めたら一生やめられないということではありません。一度インスリン療法を導入しても、生活習慣の改善や他の併用薬の工夫でインスリンをやめられるケースも多くあります。
インスリン注射の「痛み」について
インスリン注射には、ペン型の自己注射器が用いられます。この注射器には非常に細くて短い針が使われており、一般的な予防接種で使用される細い針と比較しても、痛みは大幅に少ないです。痛みに対する感じ方には個人差がありますが、多くの方がインスリン療法を行う際に痛みをほとんど感じないと報告しています。
インスリン療法の副作用について
インスリン治療における主要な副作用の1つが「低血糖」です。これは血糖値が正常よりも低くなる状態を指します。一般的には血糖70mg/dl未満が低血糖です。低血糖はインスリンだけでなく、他の糖尿病用の薬を服用している際にも発生する可能性があります。低血糖のリスクを最小限に抑えるためには、薬の組み合わせに注意が必要です。また、低血糖が発生した場合に備えて、患者さまが事前に適切な対応方法を理解しておく必要があります。低血糖の初期症状を感じたら、ブドウ糖を摂取することで、より深刻な状態への進行を防ぐことができます。糖尿病の治療を受ける際には、医師から低血糖発作について、そしてその適切な対処法についての説明を受けることが大切です。何か不明な点や不安があれば、どんな小さなことでも質問し、しっかりと理解しておきましょう。
低血糖の症状
初期
激しい空腹感、冷や汗、動悸、震え、倦怠感、不安感など
中期
全身の倦怠感、頭痛、脱力感、眠気(生あくび)、眼のかすみなど
後期
意識消失、痙攣、異常行動など
ブドウ糖携帯について
低血糖の初期症状を感じたら、直ちにブドウ糖10gを摂取しましょう。これにより症状が改善されることが多いです。ブドウ糖が手元にない場合は、ブドウ糖を含むジュース200~350mlを飲むことで代用できます。ただし、あくまでも低血糖にはブドウ糖ですので、必ずブドウ糖を携帯しましょう。
医師との相談
低血糖が発生し、ブドウ糖摂取後に症状が改善された場合でも、速やかに医師に報告しましょう。適切な治療のためには、薬の量や投与回数の調整が必要になることがあります。自己判断で薬の服用を中止したり、用量を減らしたりすることは避けてください。
患者さまのライフスタイルやニーズに合わせたインスリン療法の選択が大切です。当院では糖尿病専門医による適切なインスリン療法が可能ですので、インスリンについて気になることがありましたらお気軽にご相談ください。