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睡眠時無呼吸症候群(SAS)

睡眠時無呼吸症候群とは?

睡眠時無呼吸症候群睡眠中に呼吸が一時的に停止、または弱くなる状態を繰り返す病気です。「無呼吸(10秒以上の呼吸停止)」や「低呼吸(呼吸の減衰)」が1時間に5回以上発生し、さらに日中の眠気や集中力の低下などの症状がある場合に診断されます。この病気には、肥満や扁桃の肥大により気道が狭まる閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)と、脳や神経系の障害による中枢性睡眠時無呼吸(CSA)の2種類があります。

睡眠時無呼吸があると、
どのような症状がでますか?

睡眠時無呼吸症候群の症状睡眠時無呼吸症候群は初期には自覚症状が少ないことが多く、しばしば他人からいびきや睡眠中の呼吸停止の指摘で気付かれます。症状が進行し重症化すると、日中の過度な眠気や慢性頭痛、めまい、吐き気、一般的な体調不良を患者さまご自身が感じ始めます。これらの自覚症状がみられる場合は、病状が進行している可能性が高いため、早期の診断と治療が必要です。

睡眠時無呼吸症候群が
起きる原因は?

閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)が
起きる原因は?

睡眠時無呼吸症候群の原因で最も多いのは、肥満による気道の物理的な狭窄です。実際、睡眠時無呼吸がみられる患者さまの多くが肥満体型です。高度な肥満だけで睡眠時無呼吸が発生することもありますが、肥満が唯一の原因ではありません。例えば、もともと扁桃腺が大きい方や顎の小さい方が年齢とともに体重が増加すると、睡眠時無呼吸が発生することがよくあります。
そのため、肥満ではない方でも、扁桃腺が大きい、または顎が小さいという骨格的特徴を持つ方は、若い時からいびきや無呼吸に気をつけなければなりません。

中枢性睡眠時無呼吸(CSA)が
起きる原因は?

中枢性睡眠時無呼吸は、脳や全身の疾患によって引き起こされることがあります。主な原因には、脳炎、脳幹障害、重度の心不全、甲状腺機能低下症、薬剤の影響、さらには高地環境や心不全に伴うチェーンストーク呼吸などが含まれます。
これらの疾患では、睡眠時無呼吸以外にも、基礎疾患に応じた症状が現れることがあります。例えば、脳炎では発熱や神経障害、心不全では呼吸困難や慢性疲労、甲状腺機能低下症では全身倦怠感が見られることがあります。

睡眠時無呼吸は
なぜ体に良くないのか?

以下の①~③までの病態は互いに密接に関連しており、その複雑さは単純な説明では十分には表現できません。

①胸腔内が陰圧になる

気道が閉塞すると、呼吸をする際に胸腔内の圧力が低下し、これが心臓に持続的な負担をかけることになります。この状態が続くと、「心不全」や「肺高血圧症」などの重篤な病態を引き起こす可能性があります。

②低酸素、高炭酸ガス状態になる

呼吸が停止すると、肺への酸素供給が途絶え、結果として全身の酸素供給が不足します。細胞は酸素をエネルギー源として利用しているため、酸素不足は細胞や臓器にダメージを与えます。低酸素状態や高炭酸ガス濃度による交感神経の過剰な活性化をはじめ、神経体液性因子への悪影響、細胞の変性、血管内皮の障害、血小板機能の障害を引き起こします。
これにより、高血圧や不整脈、動脈硬化(脳や心臓の血管疾患)、糖尿病、深部静脈血栓症などの病態が生じる可能性があります。

③睡眠の質が低下する

閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)は、睡眠の質の低下を引き起こし、深い睡眠の減少や覚醒の増加によって認知機能に悪影響を及ぼします。これは認知症のリスクを高める要因となります。さらに、血管内皮の障害により、認知機能の低下がさらに加速してしまう危険性もあるとされています。

睡眠時無呼吸の疫学について

中枢性睡眠時無呼吸(CSA)は、特定の環境下で発生するため、疫学としてカウントするのが難しい病態です。そのため、睡眠時無呼吸の大部分は閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)であるとされています。日本における閉塞性睡眠時無呼吸の有病率は、1時間あたりの無呼吸/低呼吸の回数(AHI)が5回以上で約30%、15回以上で約15%とされています。これは、高血圧や脂質異常症と同じくらい一般的な病態でありながら、認知度はまだ低いと感じられるかもしれません。
閉塞性睡眠時無呼吸は以下のような他の疾患と深く関連しており、慢性腎臓病や大動脈疾患、肺高血圧症などとの関連も指摘されています。

①高血圧との関係

閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)を持つ患者さま(AHI≧5)の約半数に高血圧がみられます。また、高血圧を持つ患者さまの約60%にも、閉塞性睡眠時無呼吸症候群(AHI≧5)が確認されています。難治性高血圧の患者さまが閉塞性睡眠時無呼吸症候群の治療を始めると、血圧の管理が向上することが報告されています。

高血圧

②糖尿病との関係

閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)を持つ患者さまの約15~30%に2型糖尿病がみられ、逆に2型糖尿病患者の約80%には閉塞性睡眠時無呼吸症候群(AHI≧5)が確認されています。原因の一つとして、OSAによる慢性的な低酸素血症と交感神経亢進が、インスリン抵抗性の悪化を誘発するとされています。

糖尿病

③不整脈、心房細動との関係

閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)を持つ患者さまの約半数に、睡眠中の不整脈がみられます。これには心房細動、非持続性心室頻拍、洞停止、2度房室ブロック、心室性期外収縮などが含まれます。また、心房細動を持つ患者さまの約40%に、閉塞性睡眠時無呼吸症候群(AHI≧5)が確認されています。発作性心房細動の患者さまに閉塞性睡眠時無呼吸症候群の治療を施すと、心房細動の発作頻度が減少することが報告されています。

不整脈

④脳血管障害との関係

閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)を持つ患者さまの脳血管障害による死亡リスクは、閉塞性睡眠時無呼吸症候群を持たない患者さまに比べて2倍以上高いことが明らかにされています。

⑤認知症との関係

閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)を持つ患者さまの認知症のリスクは、閉塞性睡眠時無呼吸症候群がない方と比較して約2~3倍高いとされています。

検査について

睡眠時無呼吸の診断には、1時間あたりの無呼吸と低呼吸の回数を示すAHIが用いられます。この指標を測定するためには、アプノモニターを使用した簡易検査と、ポリソムノグラフィー(PSG)による精密検査の2つの方法があります。これらの検査では、血中酸素濃度、脈拍、気流、いびき音、胸郭運動などのパラメーターが評価されます。これを測定するモニターを装着していただいたまま就寝することで、睡眠中にデータが収集されます。

①簡易検査

簡易検査はコストが低く、装着するモニターの数も少ないため、初期のスクリーニング検査として利用されます。ただし、AHIが実際よりも低く評価される傾向があるため、陰性結果であってもOSAを完全に除外することはできません。確定診断や治療方針の決定にはより詳細な精密検査による再評価が必要です。

②精密検査

ポリソムノグラフィー(PSG)は、より多くのモニターを装着し、より詳細なデータを収集するため睡眠時無呼吸の状態を正確に評価できます。簡易検査で異常が疑われた場合に実施されることが一般的です。コストは高いですが、AHIだけでなく睡眠構造や酸素飽和度の詳細な情報を得ることができ、正確な診断に役立ちます。

治療について

AHIの値と患者さまの症状に基づいて決定されます。AHIが5以上の場合は無呼吸と診断され、AHIが20以上の場合はCPAPを用いた治療が推奨されます。加えて、生活習慣の改善が行われることもあり、気道の構造的異常が原因の場合には、手術などの他の治療方法も検討されます。

①生活習慣の是正

どの状態にあっても、生活習慣の改善は有効とされており、実践することが推奨されます。「体重の減少」「禁煙」「ベンゾジアゼピン系睡眠薬の使用停止」「睡眠前のアルコール摂取の制限」などが行われます。

②体位変換療法

50%の閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)は、仰向けの姿勢で発生することが知られています。そのため、仰向けの姿勢を避けて寝るのが望ましいですが、この問題については、まだ国際的に共通の見解が形成されていません。

③解剖学的要因に対する治療

扁桃腺の肥大や鼻の構造的問題があると、閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)だけでなく、慢性的な扁桃炎や副鼻腔炎を引き起こすリスクが高まります。このような状況では、扁桃腺を取り除く手術や鼻ポリープの除去などの処置によって、閉塞性睡眠時無呼吸の症状の改善が期待できることがあります。

④CPAP

CPAPCPAP療法は、機械で気道に空気を送り込み続ける方法で、医療機器を使用した治療の中でも心臓血管疾患のリスクを減少させる効果があるとされる唯一の治療です。他の装置として挙げられる「ナステント」や「マウスピース」には、症状を軽減する効果はありますが、心臓血管疾患の発症を抑制する効果はみられません。
睡眠時無呼吸指数(AHI)が20以上の場合、CPAP療法が第一の治療選択と推奨されています。この治療法では、鼻や鼻と口を覆うマスクを使用し、睡眠中に気道に一定の圧力の空気を送り込みます。治療初期には、マスクからの絶え間ない空気の流れによって息苦しさや鼻の乾燥を感じることがありますが、患者さまの多くは時間が経つにつれて感覚に慣れ、数ヶ月経過すると「マスクをつけながら眠る方が快適だ」という声をよくいただきます。

⑤ナステントやマウスピース

CPAP治療を継続することが望ましいですが、CPAPの装着が困難な方もいらっしゃいます。そのような場合、代替として「マウスピース」や「ナステント」の使用が考えられます。これらの器具を使っても、効果的にAHIを下げることができる方もいるため、CPAPが装着できないとしても、試す価値はあります。
さらに、AHIが5~19の範囲の方については、日本の保険診療ではCPAPは適用されませんが、顎が小さい方や鼻腔が狭い方は、マウスピースやナステントを試すことができます。なお、マウスピースは保険適用がありますが、ナステントは自由診療の対象です。