逆流性食道炎とは
逆流性食道炎は、胃酸が食道へ逆流し、胸焼けやみぞおちの痛み、呑酸などの症状を引き起こす病気です。咳が出ることもあり、その原因としては、胃酸が気管支や喉を直接刺激して炎症を起こすこと、または胃酸によって食道下部の迷走神経が刺激され、気道の迷走神経も反射的に刺激することが挙げられます。
逆流性食道炎の発症原因は、胃と食道の境界に位置する噴門(ふんもん)が緩むことにあり、肥満、食べすぎ、早食い、加齢、食道裂孔ヘルニアなどが誘因となります。
逆流性食道炎は、会話などで声を出すことによって咳が増悪するケースが多いです。これは、横隔膜が噴門の閉じ具合に影響を与え、発声時の横隔膜の動きが噴門の緩みや逆流を促進するためです。また、横になった際に咳が増悪する症状もみられます。
逆流性食道炎には様々な
呼吸器病を合併する
逆流性食道炎は、しばしば他の呼吸器系の疾患と併発します。そのため、多くの要因が絡んで咳が悪化するケースも珍しくありません。実際に、気管支喘息の患者さまの約40%に逆流性食道炎がみられるとされています。肺気腫を患っている方々においても、逆流性食道炎が合併することがあり、互いに症状を悪化させることがあります。
また、閉塞性睡眠時無呼吸症候群の合併が逆流性食道炎の症状を増悪させ、咳を引き起こすことが報告されています。逆流性食道炎とこれらの呼吸器疾患は密接な関係にあると言えます。
問診・検査は?
当院では、Fスケールという評価方法を採用しています。これには胃酸逆流の症状と胃運動不全(胃もたれ)に関する質問があり、合計得点が8点以上の場合、逆流性食道炎が疑われます。
確定診断には、胃カメラ検査や24時間食道pHモニタリングが役立ちますが、胃薬を一定期間服用して症状の変化を観察する診断的治療も有効とされます。
質問 | 記入欄 | ||||
---|---|---|---|---|---|
ない | まれに | 時々 | しばしば | いつも | |
1. 胸焼けがしますか? | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 |
2. おなかがはることはありますか? | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 |
3. 食事をした後に胃が重苦しい(もたれる)ことはありますか? | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 |
4. 思わず手のひらで胸をこすってしまうことはありますか? | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 |
5. 食べたあとに気持ちが悪くなることがありますか? | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 |
6. 食後に胸焼けがおこりますか? | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 |
7. 喉の違和感(ヒリヒリなど)がありますか? | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 |
8. 食事の途中で満腹になってしまいますか? | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 |
9. ものを飲み込むと、つかえることがありますか? | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 |
10. 苦い水(胃酸)が上がってくることはありますか? | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 |
11. げっぷがよくでますか? | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 |
12. 前かがみをすると胸焼けがしますか? | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 |
胃酸逆流関連症状
1.4.6.7.9.10.12= 点
運動不全(もたれ)症状
2.3.5.8.11= 点
合計点が8点以上は逆流性食道炎の可能性が高いです。
NERD
(非びらん性胃食道逆流症)とは?
胃カメラ検査で食道の異常が見つからない場合でも、胃内容物の逆流による胸焼けや胸痛が現れる病気が「NERD」と呼ばれ、慢性的な咳の一因となることがあります。
逆流性食道炎の治療に用いられるプロトンポンプ阻害薬(PPI)は、NERDに対しては約50%の有効率であるとされ、逆流性食道炎に対する70~80%の有効率と比較して効果が劣ると指摘されています。
また、食道や胃の動きが悪化する機能性ディスペプシアを併発することも多く、治療には消化管運動機能を改善する薬や漢方薬の使用が考慮されます。
機能性ディスペプシア
機能性ディスペプシアは、胃の機能異常や食道と胃の粘膜が過敏になることで、逆流性食道炎に類似した胸焼けや胃もたれのような症状を引き起こす病気です。胃カメラ検査を行っても胃の粘膜に目立った異常が発見されません。ただ症状は存在するため、NERD (非びらん性胃食道逆流症)と共に「機能性消化管障害」と分類されます。
機能性ディスペプシアは逆流性食道炎やNERD (非びらん性胃食道逆流症)と重なることが20~60%程度あり、これらの症状が同時に治療されることもあります。
逆流性食道炎の治療
生活習慣の改善
逆流性食道炎の治療において、以下のような対策が勧められます。
- 早食いに気をつけ、ゆっくり噛んで食べる
- 炭水化物や糖質の多い飲食を控える
- 肥満の方は体重を減らす
- 喫煙者は禁煙を始める
- アルコール摂取を控える
- 夜間に症状がある場合は、夕食を早めに(就寝の4時間前には)済ませる
- 睡眠時に頭部を高くする
ゆっくり食べることでゲップと胃酸の逆流を防ぎます。
炭水化物や糖質、肉類は胃酸過多となりやすいので、これらの取り過ぎには注意が必要です。
体重を減らすことで内臓脂肪が減り、腹圧が低下するため胃酸の逆流が減少します。
喫煙は胃と食道の境界部を緩めるため、禁煙により逆流が減ると指摘されています。
夕食は早めに済ませるのが望ましく、特に就寝の4時間前には食事を終えることが推奨されています。実際に、就寝6時間前に夕食を摂った場合と、就寝2時間前に夕食を摂った場合では、後者の方に逆流が多かったと指摘されています。
睡眠時には枕を10~20cm高くして逆流を抑えると良いでしょう。また、左側を下にした姿勢で横になると胃の出口が緩むため、逆流が減るとされています。
アルコールは胃酸の分泌を促すため、摂取を控えることが逆流症状の改善に繋がります。
薬物療法
胃酸の分泌を抑えるためには、主にプロトンポンプ阻害薬(PPI)、P-CAB、H2ブロッカーの3つの薬が用いられます。PPIはH2ブロッカーに比べて効果が高いとされており、通常は第一選択薬として処方されます。さらに強力な効果を持つP-CABは、PPIの効果が不十分な場合や効果が見られない場合に選択されることがあります。
これらの薬は副作用が少なく、かつ安全性も高いですが、稀に下痢や便秘といった副作用が生じます。
胃酸分泌抑制薬
プロトンポンプ阻害薬(PPI)
ネキシウム、タケプロン、オメプラール、パリエット
P-CAB
タケキャブ
H2ブロッカー
ガスター
消化管運動機能改善薬
消化管運動機能改善薬は、胃の動きを促進し、胃もたれのような症状を緩和します。逆流性食道炎やNERD (非びらん性胃食道逆流症)の患者さまには、胃の動きが落ちる機能性ディスペプシアを併発することがしばしばあり、その場合にはこういった薬が有効であるとされています。
胃食道粘膜保護薬
食道と胃の粘膜を保護するために、膜を形成してくれる薬です。最も一般的に使用されるのはアルロイドという名前の薬で、粘り気のある液体を20~30ml飲んでいただきます。
漢方薬
六君子湯(りっくんしとう)、半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)は、胃の動きを促進し、その機能を向上させる効果のある漢方薬です。
手術治療
胃酸抑制薬を服用したのにもかかわらず、逆流症状や咳が改善されない場合は、稀にですが外科手術を選択することがあります。
手術は腹腔鏡を使用して逆流を防ぐことを目的として行われ、胸焼けを含めた主要な症状のコントロールにおいて70~90%の高い効果があると報告されています。