花粉症とは
花粉症は、特定の植物の花粉によって引き起こされるアレルギー反応です。
植物の種類によって花粉の飛散する時期が変わるため、「季節性アレルギー」とも呼ばれます。主な原因植物には、スギやヒノキ、シラカバ、ブナなどの樹木や、カモガヤやブタクサ、ヨモギ、オオアワガエリ、カナムグラなどの草花があります。
日本は森林が広く、特にスギが多く植えられているため、スギによる花粉症が花粉症全体の70%以上を占めています。スギ花粉は量が多く、風に運ばれて遠くまで飛ぶことができるため、花粉症の代表格とも言える存在です。スギ花粉は2月~3月にかけて多く飛散しますが、実際には秋から生成され始め、秋の気温変化によっても飛散します。
また、戦後に植えられたスギが成長し、花粉量が増加していることから、スギ花粉症の患者数は年々増加傾向にあります。実際に、日本人の約40%以上がスギ花粉症を発症しているとされています。
スギは日本固有の植物であり、スギ花粉症は日本の国民病と言えるでしょう。さらに、スギやイネなどは飛散期間が長いため、これらにアレルギーがある場合、1年の大半で症状が出る可能性があります。
花粉症の症状について
花粉症の主な症状にはアレルギー性鼻炎(くしゃみ、鼻水、鼻づまり)やアレルギー性結膜炎(目のかゆみ、涙)がありますが、鼻炎や結膜炎の症状が少ないにもかかわらず、アレルギー性気管支炎(喉の違和感、咳、息苦しさ)やアレルギー性皮膚炎(かゆみ、乾燥、湿疹)といった症状が現れる方もいます。
風邪との区別は、「透明で水っぽい鼻水」「喉が痛いというよりかゆい」「これらの症状が1週間以上続くが、発熱や強い倦怠感がない」点ですが、判別が難しい場合もあります。
特に、アトピー性皮膚炎や皮膚が敏感な方は、花粉が原因であることに気付きにくい傾向があります。また、消化器症状や持続する発熱など、全身症状が花粉症によるものである可能性があることも、症状の鑑別において重要です。
さらに、鼻炎による頭痛や集中力の低下、睡眠不足による症状の悪化が日常生活に大きな影響を及ぼします。花粉症は仕事や学習の効率を30%以上低下させることが示されており、「我慢できる」と治療を先延ばしにすることが、実際には生活の質を低下させていることもあります。
なぜ花粉症になるのか
花粉症は、花粉が目や鼻の粘膜に接触することで起こるアレルギー反応です。
粘膜にあるリンパ球が花粉を異物と認識し、IgE抗体を生成して以後の花粉侵入に備えます。
花粉が再び粘膜に付着すると、マスト細胞(肥満細胞)と結合したIgE抗体が活性化し、ヒスタミンやロイコトリエン、トロンボキサン、PAFなどのケミカルメディエーターを放出します。
これらは、他の細胞に情報伝達して働きかける性質を持っている物質です。
そのためこれらの物質によって神経が刺激されてくしゃみを引き起こしたり、分泌腺を活性化させて鼻水を生じさせたり、血管を拡張して粘膜のむくみや鼻づまりを引き起こしたりします。
「急に花粉症になった」という方もいらっしゃるかと思いますが、花粉症の症状が突然現れるのは、IgE抗体が一定量に達し、免疫反応が即座に起こる準備が整ったためです。さらに、アトピー性皮膚炎や乾燥、怪我などで皮膚の免疫防御が低下している状態では、花粉が直接皮膚から侵入し、「経皮感作」によって花粉症が発症することもあります。
都市部では花粉症の発症率が高いことから、花粉だけでなく、花粉が排気ガスなどのダストと結合した物質がアレルギー反応を引き起こす可能性が高いとされています。このように、花粉症は多様な要因によって引き起こされる複雑な症状です。
花粉症の検査
花粉症の診断には、血液検査が用いられ、特定の花粉に対するIgE抗体の測定によって確定診断が可能です。
花粉の飛散時期はある程度予測できるため、症状が現れる時期から原因となる花粉を推測することはできます。
治療方法は花粉の種類によって大きく変わるわけではりません。そのため、必ずしも特定の花粉を特定する必要があるとは限りませんが、治療が難しい症例の場合や、通常と異なる時期・状況で症状が現れた場合には、検査が推奨されます。
アレルギーの原因を明確に知ることで、症状が出る前に治療を開始したり、適切な治療強度を選択したりすることが可能になります。アレルギー反応の強さに応じて治療が難しくなることが多いため、事前に治療強度を調整することが重要です。
そのため、治療の進行に応じて検査を行うことをお勧めすることがあります。
花粉症の治療
1)抗ヒスタミン薬
花粉症治療の初期段階で一般的に用いられるのが、抗ヒスタミン薬による内服治療です。
ヒスタミンの放出はアレルギー症状を引き起こす主要な原因です。そのため、抗ヒスタミン薬によってヒスタミンが細胞に作用するのを阻害し、症状の発現を抑制します。
アレルギー反応においてヒスタミンの影響は大きく、全体の約70%がヒスタミンによるものとされています。そのため、ヒスタミンの働きをブロックすることで、多くのアレルギー症状を効果的に抑えることができます。
2)その他のケミカルメディエーターに関与する内服薬
抗ヒスタミン薬だけで症状が十分に抑えられない場合は、抗ロイコトリエン薬、抗トロンボキサン薬、ケミカルメディエーター遊離抑制薬などを追加して治療を行うことがあります。
なお、これらの薬は、単独で使用した場合の効果はあまり強くありません。それぞれが作用する受容体の分布にも特徴があるため、患者さまの症状に応じて選択して使用されます。
3)抗IgEモノクローナル抗体:
オマリズマブ
重度の季節性アレルギー性鼻炎に対しては、オマリズマブというヒト化抗IgEモノクローナル抗体による皮下注射が使用されるようになりました。
しかし、この治療法は費用が高く、副作用のリスクがある上、継続的な治療が必要とされるため簡単に推奨されるものではありません。
しかし、従来の治療法では改善がみられず、日常生活に大きな支障をきたすほどの花粉症の患者さまにとっては、オマリズマブが新たな希望となる可能性があります。
4)その他の治療
鼻粘膜へのレーザー照射についても保険適応で認められています。
これは根本的な解決策ではないものの、症状を一時的に抑える効果が期待されます。
ただし、効果には個人差があり、一度の治療で完結しないこともあるため、他の治療法との併用や適切なタイミングでの使用が推奨されます。
また、ステロイド注射を提供する医療機関もありますが、ステロイドは通常、命を脅かす状態で使用されることの多い薬です。副作用もあるため、安易な使用は推奨されません。当院では、患者さまの安全を最優先に考え、ステロイドの使用を控えています。ご理解いただけますと幸いです。
舌下免疫療法
アレルギー反応に関わる物質をブロックする抗ヒスタミン薬、抗ロイコトリエン、抗トロンボキサンA2などは、対処療法的なアプローチですが、アレルギーを根本から改善する方法として、舌下免疫療法があります。
この治療では、アレルギーの原因物質を少しずつ体内に取り入れ、体を徐々に慣らす減感作を行います。
これにより、アレルギー反応を抑制し、長期的な改善を目指します。
舌の下に薬を置いてから服用することから「舌下免疫療法」と呼ばれています。
現在、スギ花粉アレルギーに対する「シダキュア」や、ダニアレルギーに対する「ミティキュア」が処方できます。これらの薬を毎日舌の下に置いて溶かします。
そして、3年~5年の継続使用でアレルギー症状を軽減させます。効果は個人差があり、一生続く方もいれば、10年程度で症状が戻る方もいますが、治療前に比べて改善された状態を維持できることが多いです。
治療期間が長いと感じるかもしれませんが、多くの患者さまが毎年、症状が緩和されることを実感し、「治療を最後まで続けたい」「治療終了後もこの良い状態を維持したい」という声をいただいています。
舌下免疫療法を開始した後の最初の1ヶ月間は、口腔内の違和感などの副反応が現れることがありますが、多くの患者さまは数ヶ月で副反応が消失し、治療を問題なく続けられます。
スギ花粉症の治療薬「シダキュア」は、スギ花粉の飛散が多い12月~翌年4月の期間に新たに治療を開始すると副反応が強まる可能性があるため、この時期の新規治療開始は避けることが推奨されています。
これに対して「ミティキュア」はダニアレルギー治療薬です。ダニの繁殖時期に明確なピークはないため、年間を通じて治療を開始することができます。
なお、妊娠を希望される方は、妊娠や出産時に治療を中断する必要があり、3年未満で中断した場合は再発することが多いため、治療の再開を余儀なくされることがあります。そのため、治療を開始するタイミングについては慎重に検討する必要があります。