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気管支喘息

気管支喘息とは

気管支喘息気管支喘息は、呼吸の通り道である気道部分に慢性的なアレルギー反応による炎症が生じることで、気道が敏感になり、風邪や気温の変化などの外的刺激によって気管支が狭まり、咳や痰の症状を引き起こす疾患です。この病気は、症状の出現と消失を繰り返し、特に夜間から早朝にかけて症状が悪化する傾向があります。
喘鳴(ゼーゼー、ヒューヒューという音)、呼吸困難、咳、痰、喉や胸の圧迫感などが典型的な症状です。風邪のひき始めや天気の急変、季節の変わり目などが、症状の悪化を引き起こすトリガーとされています。

気管支喘息の原因はアレルギー?

気管支喘息は、気道に慢性的なアレルギー反応による炎症が生じることで、気道が過敏になる疾患です。一般的なアレルゲンには「ほこり」「ダニ」「花粉」「ペットの毛」などがあります。この状態を「気道過敏性」と呼び、火傷をした後のヒリヒリする感覚に似ています。気道が外部刺激に対して過敏に反応するため、「寒暖差」「季節の変わり目」「気温や気圧の変化」「タバコなどの煙」などが咳や喉の詰まり感、胸が重たく感じるといった症状を引き起こすトリガーとなります。喘息の患者さまは、表面上は症状がみえないこともありますが、症状はあくまで氷山の一角のようなものです。症状の有無にかかわらず、気道の慢性的なアレルギー炎症と過敏性が常に存在しており、疾患の本質はアレルギー炎症と気道過敏性にあると言えます。

気管支喘息の診断

診断喘息の診断には、患者さまの症状や身体の状態を評価する「臨床診断」と、呼吸機能検査やアレルギー検査を含む「検査による診断」の2つのアプローチがあります。喘息はその性質上、時間とともに症状が変わるため、診察時の状態のみで診断を下すと、喘息を見逃す危険性があります。過去の喘鳴の有無、小児期の喘息歴、風邪後の長引く咳、呼吸困難の経験など、患者さまの話から得られる情報は、正確な診断に不可欠です。残念なことに、一度でも成人喘息を発症した方の95%以上は、生涯にわたって続くとされており、喘息の診断がついた方は、保険加入時や何らかの医療処置を行う際に(予防接種や造影剤、麻酔の使用など)も喘息のことを伝えなくてはなりません。このように、喘息は患者さまの生活に大きな影響を与えます。そのため、当院では喘息診断の正確性をできるだけ確保するために、臨床的な観察だけでなく、検査結果も総合的に考慮して診断を行っています。

問診

喘息の診断に関する実践ガイドラインでは、患者さまが喘鳴、咳、喀痰(かくたん:痰のこと)、息苦しさ、胸痛などの主要な症状を持つ場合、加えて15項目のサブカテゴリーのうち1つ以上に該当する場合は、喘息の可能性を疑います。重要なのは、過去に吸入薬への反応や喘息の診断歴、日内の変動(特に夜間の症状の悪化)、季節による変動など、気道の過敏性を示唆する要因や、アトピー性疾患の傾向(アレルギー体質や家族歴)などの情報を、丁寧に患者さまからヒアリングすることです。

喘息を疑う患者さまに対する
問診チェックリスト

大項目の1つと小項目のいずれか1つ以上が当てはまる場合、喘息の可能性を考慮します。

大項目

喘息の疑いがある症状(喘鳴、咳嗽、喀痰、息苦しさ、胸痛)が存在する。

小項目(症状)
  • ステロイドを含む吸入薬または経口ステロイド薬で呼吸症状が改善した経験がある
  • 喘鳴(ゼーゼー、ヒューヒューという音)を感じたことがある
  • 3週間以上続く咳嗽を経験したことがある
  • 夜間を中心に咳嗽が起こる
  • 呼吸困難を伴う咳嗽がある
  • 症状に日内変動がみられる
  • 症状が季節によって変わる
  • 香水や線香の香りが症状のトリガーとなる
小項目(背景)
  • 過去に喘息と診断されたことがある(小児喘息を含む)
  • 両親や兄弟姉妹に喘息の方がいる
  • 好酸球性副鼻腔炎がある
  • 過去にアスピリン喘息と診断されたことがある
  • アレルギー性鼻炎がある
  • ペットを飼い始めて1年以内である
  • 末梢血好酸球数が300/μl以上である
  • アレルギー検査(血液検査または皮膚検査)でダニ、真菌、動物に対して陽性反応がある

診察(聴診)

胸部聴診時では、患者さまが息を吐く際に「ゼーゼー」「ヒューヒュー」といった喘鳴が鳴っていないかをチェックできます。通常の呼吸では喘鳴が聞こえない場合もあるため、強制的な呼気(深く息を吸い込んでから一気に息を吐き出す動作)を行いながらの聴診が実施されます。

検査

呼吸機能検査(スパイロメトリー)

肺の機能を測定するため、息を吐いたり吸ったりする検査です。通常の呼吸(安静呼吸)と力を入れて行う呼吸(努力呼吸)の両方を評価します。

呼吸機能検査の評価項目について
努力性肺活量(FVC) 肺の容量を示します。
1秒量(FEV1) 1秒間に吐き出せる空気の量で、気道の通過性を反映します。
1秒率 「1秒量」/「努力肺活量」

診断において最も重要なのは1秒率です。肺のサイズ(肺活量)は個人差が大きいため、「ご自分の肺のサイズ(努力肺活量)に対する気管支の狭さ」の指標として捉えていただくと良いでしょう。1秒率が70%未満であれば「閉塞性障害」、つまり気管支が病的に狭い状態であると判断されます。喘息が既に診断されている患者さまでは、治療前後の1秒量の変化を確認することで、気管支が適切に拡張しているかを確認できます。また、強く息を吐いた際に得られるグラフを「フローボリューム曲線」と呼び、喘息の患者さまの曲線は下方に凸の形(へこみ)を示す傾向が強いです。

気道抵抗性試験(モストグラフ)

気管支の狭さ(抵抗)を測定する検査です。気管支が狭い場合、グラフ上で山が高く、赤から黒色で表示されます。一方、気管支が広い場合は、グラフが平坦で、緑から青色で示されます。この検査は20~30秒間普通に呼吸を続けるだけで完了するため、非常に簡単で、大人だけでなく5~6歳のお子様も受けることができます。

検査結果解釈上の注意点

一部の人々、特にお子様や特定の成人は、体質的に高い気道抵抗を持っていることがあります。このため、自覚症状(呼吸の苦しさや喘鳴)、過去の病歴、呼気中の一酸化窒素(NO)検査の結果などを総合し、喘息の診断を行うことが大切です。
さらに、気道可逆性試験(気管支拡張薬の吸入前後の変化を観察する試験)や治療の効果を追跡することで、気道抵抗の低下がみられれば、気道狭窄の存在を確認できます。
気管支拡張薬を吸入した後に気道抵抗が改善される(グラフ上で黄色から緑への変化)場合、喘息が潜在的に存在する可能性があるとされています。

呼気NO検査

呼気NO(FeNO)検査は、気道のアレルギー反応を評価するための検査であり、喘息や咳喘息の診断、および既に喘息と診断されている患者さまの炎症状態のモニタリングや治療効果判定に役立つ指標です。この検査は、10秒間一定の速度で息を吐くことによって行われます。
呼気中の一酸化窒素(FeNO)値の目安は以下の通りです。

  • 喘息の診断には「22 ppb(特異度84%)」または「37 ppb(特異度99%)」を超えることが基準です。
  • 診断時にFeNO値が高くても、治療によって改善が期待でき、治療の指標として役立ちます。ただし、FeNO値が低い喘息も存在するため、解釈には注意が必要です。

日本における健康な方の呼気NO検査の上限値は37 ppbとされています。そのため、喘息を疑う症状があり、FeNO値が37ppbを超えていれば喘息と診断することができます。しかし、FeNO値が37ppb未満の場合は、喘息を疑う症状や過去の喘息歴、呼吸機能検査やピークフローの結果を総合して判断する必要があります。

ピークフローメーター

ピークフローメーターは、患者さまがご自宅で手軽に肺機能を測定できる器具です。この検査は、どれだけ迅速に息を吐き出せるかを測定するために行われており、「呼吸の瞬間最大風速」が確認できます。肺機能検査で得られる「1秒量」と関連があり、患者さまの気管支の狭さを示します。患者さまがご自分の病状を客観的に評価するのに役立ちます。
ピークフローメーターを使用すると、1日の中での気道の狭さの変動(日内変動)、治療への反応性、呼吸の苦しさと気道の狭さとの関係を把握できます。肺機能検査は医療機関でしか実施できないため、時間の経過に伴うご自宅での気道の状態を評価するのに適しています。

ピークフローメーターの強み
  • 測定が非常に簡単である。
  • いつでも検査可能であり、夜間や早朝でも使用できる。
  • 体調が悪い時でもすぐに検査が行える。
  • 場所を選ばず、ご自宅や職場などで検査できる。
  • 日内変動は気道の過敏性を示し、通常の肺機能検査では評価できない。
  • 治療反応性を時間経過とともに観察できる唯一の機器である。

喘息は、日常的には問題がないようにみえても、風邪や天候の変化などで症状が悪化することがあります。そのため、喘息治療薬の量を調整する際には、体調が良い時ではなく、悪い時の状態を基に判断することが重要です。定期的にピークフロー値を測定し、体調が悪い時の状態を把握しながら、適切に薬の量を調整することが推奨されます。

アレルギー検査(血中好酸球、IgE)

現在利用可能な主要な検査方法としては、

  1. 特異的IgE抗体検査
  2. 血中好酸球数の測定
  3. 呼気中の一酸化窒素(FeNO)検査

が挙げられます。
これらの検査は単独で、または組み合わせて行われることが多いですが、すべての検査で陰性結果を示す患者さまもいます。
そのため、アレルギー検査の陰性結果だけで喘息を否定することはできません。
血液検査によって行うアレルギー検査としては、

  1. 血中好酸球数
  2. 特異的IgE抗体検査

が挙げられます。好酸球は健康な方にも存在しますが、300個/μlを超えると多いとされています。
特異的IgE抗体検査では、空気中に飛散し、吸入することでアレルギー反応を引き起こす抗原(吸入抗原)を調べます。吸入抗原には季節によって変わる「季節性」と一年中存在する「通年性」があります。検査項目は限られているため、より一般的で重要な抗原を中心に検査を行うことが推奨されます。

通年性アレルゲン
(年間を通じて影響を及ぼすアレルゲン)
  • ハウスダスト
  • ダニ
  • ペットの毛
  • ゴキブリ
  • カビ(カンジダ、マラセチア、ペニシリウム、クラドスポリウム、アスペルギルス、アルテルナリアなど)
  • 羽毛
  • 蛾や昆虫の断片
  • 化学物質(揮発性有機化合物やホルムアルデヒドなど)
  • 食物アレルゲン(小麦粉、ナッツ、大豆など)
季節性アレルゲン
(特定の季節のみ影響を及ぼすアレルゲン)
  • ハンノキ(1〜3月)
  • スギ(2〜4月)
  • ヒノキ(3〜5月)
  • イネ科(カモガヤ、ハルガヤ、アシ、オオアワガエリ、ギョウシバなど)(5〜8月)
  • ブタクサ(8〜10月)
  • ヨモギ(8〜10月)
  • カナムグラ(8〜10月)

気管支喘息の診断・検査 まとめ

気管支喘息の診断には、患者さまの問診、身体的診察、そして様々な検査による評価が不可欠です。喘息は1つの病気ではなく、様々な特徴を持つ症候群として捉えられます。診断後に、喘息の具体的な特性を把握することは、患者さま1人ひとりに合わせた最適な治療法を見つけるために重要です。
このアプローチは「治療可能な特性に基づくアプローチ」と呼ばれ、現代の喘息治療において重要視されています。