咳は様々な原因で起こります
咳は多様な原因によって引き起こされる症状です。特に、気管支の異常(咳喘息や喘息)や肺の病気(肺炎)などがよく挙げられますが、逆流性食道炎や後鼻漏、喉頭アレルギーなどのような胃・鼻・喉の病気も咳の原因となることがあります。
こんな症状はありませんか?
- 喉のイガイガ感
- 喉のヒリヒリ感
- 喉に何かが詰まっているような感覚
- 喉に薄皮が張っているような感覚
- 喉が締め付けられているような感覚
- 喉に痰が絡んでいるような感覚
このような喉に感じる不快な症状は、「咽喉頭異常感症」と呼ばれます。これらの症状は、多様な原因によって引き起こされることがあります。
咽喉頭異常感をきたす疾患
- アトピー咳嗽
- 咳喘息
- 咽喉頭アレルギー
- 後鼻漏
- 逆流性食道炎(GERD)
- 咽喉頭逆流症(LPRD)
- 甲状腺疾患
- 糖尿病
- 鉄欠乏性貧血
- 膠原病(シェーグレン症候群)
- 悪性腫瘍
(上咽頭・食道がんや悪性リンパ腫など) - 大動脈瘤
- ヒステリー球
- 自立神経失調症
- うつ病
- 心身症
- 不安神経症
- タバコによるダメージ
- 老化による嚥下障害
のどの違和感のみで
咳や痰がない場合
気道の症状がなく、咽喉頭異常感だけがある場合は、耳鼻科で喉頭ファイバー検査を受けることをお勧めします。これにより、喉の炎症や悪性腫瘍を除外することが可能です。必要な場合は連携する医療機関をご紹介できますので、ご希望の際にはお気軽にお申し出ください。
のどが原因で起こる咳
季節性喉頭アレルギー
季節性喉頭アレルギーについて
花粉症は、主にスギやヒノキなどの花粉により引き起こされるアレルギー反応です。鼻水やくしゃみ、鼻詰まりが出る「アレルギー性鼻炎」や、目のかゆみや涙目などが現れる「アレルギー性結膜炎」がよく知られています。しかし、花粉症が原因で咳が出ることもあり、これは「季節性喉頭アレルギー」と呼ばれます。花粉による喉の刺激が咳を引き起こすと理解すると分かりやすいでしょう。この咳は日中や夕方以降に増悪しやすく、会話中や横になった時には、特にひどくなる傾向があります。診断には、日本咳嗽学会に従い、特異的IgE検査で個々のアレルゲンを特定します。治療には抗ヒスタミン薬の服用が基本で、症状が重い場合はステロイドの吸入や内服が行われます。
季節性喉頭アレルギーの診断基準
(日本咳嗽学会)
喘鳴を伴わない咳が3週間以上続く場合は、③~⑥の全ての条件を満たす必要があります。喘鳴がなく、咽喉頭異常感だけが3週間以上続く場合は、④の条件は必要ありません。
- 喘鳴を伴わない3週間以上の持続する咳
- 3週間以上続く咽喉頭異常感(痰が絡んだ感じ、かゆみ、イガイガ感、チクチクする咽頭痛など)
- アトピー素因を示唆する所見の1つ以上があること
- 鎮咳薬や気管支拡張薬が咳に効かないこと
- 明らかな急性喉頭炎、異物、腫瘍がないこと、特に喉頭披裂部に蒼白浮腫状の腫脹がみられることがあるが、正常な所見であることもある
- ヒスタミンH1-拮抗薬やステロイド薬で症状が消失するか著しく改善すること
アトピー素因を示唆する所見について
- 喘息以外のアレルギー疾患の既往または合併がある
- 末梢血好酸球の増加
- 血清総IgE値が上昇している
- 特異的IgEの陽性反応がみられた
- アレルゲンに対する皮内テストで陽性と判定された
アトピー咳嗽(がいそう)
アトピー咳嗽(がいそう)について
アトピー咳嗽は、気管支中枢のアレルギー性炎症と、気管支表面の咳受容体感受性の亢進によって咳が引き起こされる疾患です。この病気の症状には、特に夕方から夜にかけての喉の不快感(イガイガする感覚)があり、中年以降の女性に多いとされています。会話中や運動、ストレス時に咳が誘発されることも特徴的です。アトピー咳嗽の診断には、アトピー素因が重要な要素として考慮されます。
アトピー咳嗽の診断基準
アトピー咳嗽の診断には、以下の1~4の基準をすべて満たす必要があります。
- 喘息や呼吸困難を伴わない乾いた咳が3週間以上続く
- 気管支拡張薬による治療が効果を示さない
- アトピー素因を示唆する所見がある、または誘発喀痰中の好酸球が増加していると判明できている
- ヒスタミンH1受容体拮抗薬もしくはステロイド薬の使用により咳が止まる
アトピー素因の所見について
1) 喘息以外のアレルギー疾患の既往または合併症
2) 末梢血好酸球の増加
3) 血清総IgE値の上昇
4) 特異的IgEの陽性反応
5) アレルゲンに対する皮内テストの陽性
アトピー咳嗽(がいそう)の診断と治療
アトピー咳嗽と咳喘息は似ていますが、重要な違いは「気管支拡張薬の効果」です。気管支拡張薬は気道平滑筋をリラックスさせて気管支を広げますが、アトピー咳嗽では、気管壁の表層にある咳受容体の過敏性が原因であり、深層に位置する気道平滑筋は関係ありません。そのため、気管支拡張薬は理論的には効果がないとされます。治療には抗ヒスタミン薬が用いられ、その効果は約60%とされています。抗ヒスタミン薬で不十分な場合は吸入ステロイド、症状が強い場合は経口ステロイドの使用を検討します。
咽喉頭逆流症
(いんこうとうぎゃくりゅうしょう)
咽喉頭逆流症(LPRD)は、胃酸が食道だけでなく喉にも影響を及ぼし、喉の不快感、声のかすれ、慢性的な咳の原因となる病気です。これは逆流性食道炎(GERD)とは異なります。咽喉頭逆流症による咳は主に日中に起こり、夕方以降や会話中、緊張やストレス時、食後に悪化する傾向があります。咽喉頭には多くの感覚神経があり、胃酸に対する防御機能が弱いため、これが問題となります。
最近では、咽喉頭逆流症が治療に抵抗性のある慢性咳の原因である可能性が注目されていますが、日本での研究では、咽喉頭逆流症の患者さまの89%が逆流性食道炎の典型的な内視鏡所見を示さなかったと報告されており、これが咽喉頭逆流症の診断を困難にしています。咽喉頭逆流症の診断にはRSI(Reflux Symptom Index)問診票が用いられ、14点以上が高値とされています。
のどが原因で起こる咳の実際
アトピー咳嗽の診断基準は、気管支拡張薬が効かない状態を指します。しかし、実際には、気道表層の咳受容体が過敏になっている病態(抗ヒスタミン薬が効く場合)と、咳喘息(気管支拡張薬が効く場合)が混在することがあります。診断の正確性よりも、長引く咳を迅速に止めることが重要です。
当院では、咽喉頭異常感があり、アトピー素因が確認された場合(例えばアレルギー性鼻炎の合併がある場合)には、喉頭アレルギーやアトピー咳嗽にも考慮し、抗ヒスタミン薬による治療を試みます。また、咽喉頭逆流症(LPRD)も喉の刺激を伴う咳の一因として考慮され、F-scale問診票やRSI問診票、上部消化管内視鏡の結果を基に治療を行います。
のどが原因の咳 まとめ
喉によって発生する咳には「アトピー咳嗽」「季節性喉頭アレルギー」「咽喉頭逆流症」があり、これらは喉の不快感や咳払いを主な症状としています。
これらの疾患が疑われる際には、抗ヒスタミン薬やPPI(プロトンポンプ阻害薬)を用いた治療が行われます。治療効果がみられない場合、または咳や痰のような気道の症状がなく、咽喉頭異常感が主な症状である場合は、耳鼻科での喉頭ファイバー検査を受けることが望ましいです。